調律師と青春と。 『羊と鋼の森』感想

羊と鋼の森本、メディア

今回は宮下奈都先生の『羊と鋼の森』。

調律師の物語ですね。2016年に本屋大賞を受賞という事で手に取ってみました。最初は「羊」って書いてあるので村上春樹先生的なファンタジー(?)的な、あっちとこっちの世界を行き来するような物語と思ってました。

「羊」の毛で作られたハンマーが「鋼」の弦をたたく、それがピアノ。主人公の僕は冒頭でこう言います。

もう一度鍵盤を叩いた。森の匂いがした。夜になりかけの、森の入り口。

これで「羊」、「鋼」、「森」というキーワードがそろい、本のタイトルとなっています。僕のぼんやりとした想像とは違って現実的なピアノ調律師の成長の小説ですね。主人公の頭の中は少しファンタジックな空想が繰り広げられますけど。

「森」というのは、いつだって癒しであり、迷いでもある。森って良いですよね。確かに怖い時もあります。静かで強く生命が息づいている。

ちなみに、その後の本屋大賞の受賞は以下となっています。

2017年 蜂蜜と遠雷
2018年 かがみの孤城
2019年 そして、バトンは渡された

という事で全部読んだことが無いですね!ふむ。これから読んでいこうと思います。修業が足りませんな。
というわけで感想!


調律師と青春と。 『羊と鋼の森』感想

青臭くて迷い成長する若き調律師、無味無臭感、だがそれが良い

映画にもなっているようで予告編を見てみたところ、主人公は山崎賢人君、言わずと知れたイケメン。確かに僕のイメージした主人公もこんな雰囲気。ただし、もうちょっと目力が弱くてもっと若くて華奢なイメージでしたけど。

で、繊細で自分に自信が無くて、迷って、なんだか青臭い主人公。調律への思いだけはまっすぐです。年頃なんですが性の匂いもしませんね。無味無臭、もとい、透明感のある男の子で僕とは違います。女性が思い描く理想的な男の子の印象です。

エヴァンゲリオンのシンジ君的な感じですね。ジャンプ的なマッチョな感じではありません。おそらくジャンプの主人公でピアニストも調律師も居ませんでしたよね。

だもんで僕は感情移入しにくかったです。ちょっとまどろっこしいところもあります。僕は音楽の心得も無いので読んでいて羨ましく思うと同時に分からない世界で勉強になりました。思わず、ピアノ調律の値段なんか意味もなく調べたりしました。相場は1万5000円ぐらいで合っているかな?
森
とにかく文章は美しくて、静かに物語は進行していく。透明な男の子とともに。この男の子自身が少し透明な森と同化しているような印象を受けました。透明感ありすぎぃ!

僕は九州の田舎の出身だから森は散々見てきたけど、どうも北海道の森とは質が違う気がしますね。数少ない主人公と共通するところは僕も何かの折に森を思い出す事がある、といったところですね。疲れた時は森の中に小石になりたいです。ただぼーっと石になりたい。

純粋に、心清らかに一人前の調律師になる夢を追いかけていきます。なんだか羨ましくて途中で胸が苦しくなりました。ちょっと意地悪な秋谷先輩とかも出てくるけど結局良い奴なんだよね。それも羨ましくて胸が少し苦しくなりました。なんだか恵まれているなぁ。小説の主人公に嫉妬してどうなるわけでもないんですけど。

それで、時折、出てくる原民喜(はらたみき 1905-1951)さんの言葉もこの物語の軸のひとつですね。

「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを堪えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」

不勉強で原民喜さんを存じ上げませんが小説家の方で、主人公の憧れのピアノ調律師の板鳥先輩もこのような音を目指して調律をしているとの事。ちょっと僕には難しくてわかりませんが。でも機会があれば原民喜さんの事を知りたいです。作家の宮下さんはやはり博学。

この小説を通して心に残った文章は、主人公の僕が一度だけ光っている木を見たという思い出でした。

山で暮らしていた頃、不思議なものを見たことがあった。(中略)何が光ったような気がして、ふと目をやると、森を少し入ったところに立つ木が輝いていた。(中略)楡の木の細かい枝にさざめくように光が宿り、それがきらきらと輝いている。

結局、これがどういう現象か僕にはわかりませんけど、世界って時々、僕たちの想像を超えて美しくて、祝祭のような瞬間を見せてくれますよね。そういう時、生きているだけで良かった、って思えますよね。諦めずにこの主人公のように世界とつながって生き抜いていきたいですよね!

結局、この小説は調律を通して主人公は成長していく祝祭の物語のようです。世界は美しいものにあふれている。自分を信じて森に分け入っていけば良いだけ、という事ですかね。一歩一歩焦らずに進んでいきましょうね。

今回の本

【書籍名】羊と鋼の森
【著者名】宮下奈都
【出版社】文藝春秋
【出版日】2015年9月15日

調律師の夢を追う、透明な主人公が成長する物語。美しい文章で静かに確かに進んでいく時間。穏やかな気持ちになれる良書。表紙も綺麗で素敵です。

僕はちょっと主人公がうらやましくて胸が苦しかったけど。それでも世界は美しい。僕のちっぽけな想像を超えて。しかし羊って中国でも西洋でも特別な動物ですよね。なんなんでしょうね?研究しがいがあります。僕も夢を信じて世界をもう少しだけ信じてみよう、そう思いたい!

というわけで今回はこの辺で!

コメント

タイトルとURLをコピーしました